リチウムイオン電池、バッテリー製品を輸出する際に、安全保障の観点で書類を求められる場合があります。
そのひとつが該非判定書(非該当証明書)です。
令和3年12月15日、「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令の一部を改正する省令」が施行されます。
リチウムイオン電池には影響があるのでしょうか。
輸送・梱包ガイドでも触れましたが、輸出貿易管理令とは何か、リスト規制、キャッチオール規制、リチウム電池に関わる条項から、改めて詳しく解説してみたいと思います。
2022年12月6日施行の改正点についてはこちらでご確認ください。
外国為替及び外国貿易管理法と法体系
リチウムイオン電池製品を海外に輸出するにあたって、通関に申告するための該非判定書を求められることがあります。
武器や軍事転用可能な貨物、技術が転用されるのを防ぐため、
危険かどうかを判断するリスト規制とキャッチオール規制の該当・非該当項目を記載します。
それではなぜ、どのような法律にのっとってこの判定が必要なのでしょうか。
わが国が対外取引を行うにあたって、安全保障の観点から貿易を管理するための
外国為替及び外国貿易管理法、(略称:外為法)という法律があります。
その下に、輸出貿易管理令(略称:輸出令)と外国為替令(略称:外為令)などの政令があり
その下に、外国為替に関する省令や輸出貿易管理規制などの省令があります。
法律の目的は、下記の通りです。
対外取引に対し必要最小限の管理・調整を行い、対外取引の正常な発展やわが国または国際社会の安全の維持等を促すことにより、国際収支の均衡と通貨の安定を図り、さらにはわが国経済の健全な発展に寄与することです(同法第1条)
日本銀行 教えて!にちぎん
「該非判定書」の基準になるのがこれらの法律・政令・省令です。
経済産業省のマトリクスで、輸出品が規制対象貨物・技術に該当するかを、エクセルシートで検索できます
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/matrix_intro.html
簡単に言ってしまいますと、武器になるような危険のある輸出を禁止するためです。
テロを支援する国家などに高度な製品・材料や技術が渡ってしまうと、人命や倫理に関わり、国際的な安定が脅かされる可能性があります。
危険物が流出したために、自国や周囲の国に危険が及んでは、互いに安心して輸出入を行うことが出来ません。
そのため、先進国を中心としてつくられた国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)に基づき、原子力、核兵器・化学兵器・生物兵器、ミサイルやそれに関連した材料、通信技術などを日本から輸出するにあたっては、該当しませんという証明書が必要になります。
リチウムイオン電池に関連する条項と輸出貿易管理令別表第1
では、リチウムイオン電池製品に関連する条項はどこにあるのでしょうか。
そこで出てくるのが
「輸出貿易管理令別表第1又は外国為替令別表」です。
※製品により異なりますので、懸念がある場合は経産省やメーカーにご確認をお願い致します。
製品に関しては、輸出貿易管理令
技術に関しては、外国為替令が該当します。
リスト規制とキャッチオール規制
別表第1の1~15項をリスト規制、16項をキャッチオール規制と呼びます。
リスト規制に該当する場合、輸出に際して経済産業大臣の許可が必要になります。
リスト規制には該当しないが、大量破壊兵器や通常兵器の開発に使用される恐れがある場合、キャッチオール規制に該当します。
キャッチオール規制は仕向け国がホワイト国と呼ばれる対象の場合は、適用されません。
ホワイト国は輸出貿易管理令別表3に記載されています。
別表第1と別表第2の法的な条文は、e-GOVの法令検索より確認できます。
最新の改正情報や、詳細の確認は経済産業省の安全保障貿易管理ホームページをご覧ください。
e-GOV法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/aboutsite/
経済産業省 安全保障貿易管理 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/
経産省 令和3年3月 安全保障貿易管理ガイダンス
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance/guidance_set.pdf
条文を全て確認するのは大変ですので、簡単な表にしてみます。
リスト規制対象(1~15項)
輸出貿易管理令別表第1(貨物)・外国為替令別表(技術) 共通
構成要素であるリチウムイオン電池(一次及び二次セル)は7項で規制されていますが、バッテリーパックは該当しません。構成要素であるセルはバッテリー(1S1P含む)に組み込まれたものを除きます(貨物等省令第6条5)
ただし最終需要者や用途条件によっては該当する場合があります。
1.武器 | 6.材料加工 | 11.航法装置 |
2.原子力 | 7.エレクトロニクス | 12.海洋関連 |
3.化学兵器・生物兵器 | 8.電子計算機 | 13.推進装置 |
4.ミサイル | 9.通信 | 14.その他 |
5.先端素材 | 10.センサ | 15.機械品目 |
キャッチオール規制対象(16項)
輸出貿易管理令別表第1(貨物)、外為令別表(技術)の16項では、リスト規制品目以外で食料や木材等を除く全てが対象となります。
バッテリーは該当する場合があります。
1.動物(生きているもの に限る)及び動物性生産品 | 8.皮革革及び毛皮 並びにこれらの製品、 動物用装着具 並びに旅行用具、 ハンドバッグその他 これらに類する容器 並びに腸の製品 | 15.卑金属及びその製品 |
2.植物性生産品 | 9.木材及びその製品、 木炭、コルク及びその製品 並びにわら、エスパルト その他の組物材料の製品 並びにかご細工物及び 枝条細工物 | 16.機械類及び電気機器並びに これらの部分品並びに 録音機、音声再生機並びに テレビジョンの映像及び 音声の記録用又は再生用の機器 並びにこれらの部分品及び 附属品 |
3.動物性又は植物性の油脂 及びその分解生産物、 調整食用脂並びに動物性 又は植物性のろう | 10.木材パルプ、 繊維素繊維を原料とする その他のパルプ、 古紙並びに紙及び 板紙並びにこれらの製品 | 17.車両、航空機、船舶及び輸送 機器関連品 |
4.調整食料品、飲料、 アルコール、食酢、 たばこ及び製造たばこ代用品 | 11.紡織用繊維及びその製品 | 18.光学機器、写真用機器、 映画用機器、測定機器、 検査機器、精密機器、 医療用機器、時計及び 楽器並びにこれらの部分品 及び附属品 |
5.鉱物性生産品 | 12.履物、帽子、傘、つえ、 シートステッキ及び むち並びにこれらの部分品、 調製羽毛、羽毛製品、 造花並びに人髪製品 | 19.武器及び 銃砲弾並びにこれらの部分品 及び附属品 |
6.科学工業(類似の工業含む) の生産品 | 13.石、プラスター、 セメント、石綿、 雲母その他これらに 類する材料の製品、 陶磁製品並びに ガラス及びその製品 | 20.雑品 |
7.プラスチック及びゴム 並びにこれらの製品 | 14.天然又は養殖の真珠、 貴石、半貴石、貴金属及び 貴金属を張つた金属並びに これらの製品、 身辺用模造細貨類 並びに貨幣 | 21.美術品、収集品及びこっとう |
キャッチオール規制対象品目表
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/tutatu/t07sonota/t07sonota_kanzeiteiritu.pdf
経産省 キャッチオール規制について
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo03.html#howaitokoku
別表2
ダイヤモンド原石、放射性廃棄物、麻薬、ウナギの稚魚、ワシントン条約対象動植物、国宝など
バッテリーは基本的に非該当です。
該非判定書には、別表1の1~15項、別表1の16項、別表2に該当か、非該当かを記載し、該当の場合に許可が必要な場合は対処を行います。
非該当証明書(該非判定書)フォーマット
WordとPDFで該非判定書の経産省による参考書式・フォーマットをダウンロードできます。
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply04.html
該非判定は誰が行うか
該非判定書を作成するのは、製品のメーカーです。メーカーが内容に責任を持ちます。
ただし、輸出入を行う者が製品メーカーではない場合も同じく内容に責任を負うことになります。
2021年12月15日施行の省令改正点
令和3年10月15日付けで公布され、同年12月15日から施行される「外国輸出貿易管理令別表第1及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令の一部を改正する省令等」の改正点は下記URLのCISTECのウェブサイトから確認できます。
簡単に表にまとめてみます。
改正前 | 改正後 | |
輸出貿易管理令別表第一条 十七項 | 光学的器械 | 光学的器械(オートコリメーターを含む) |
第二条一 | 新設 | 軍用の化学製剤の原料となる物質として、 次のいずれかに該当するもの 又はこれらの物質を含む混合物であって、 いずかの物質の含有量が全重量の 三〇パーセントを超えるもの メチルホスホロジクロリダート エチルホスホロジクロリダート メチルホスホロジフロリダート エチルホスホロジフロリダート ジエチルクロロホスファイト クロロフルオロメチルホスフェート クロロフルオロエチルホスフェート N・Nージメチルホルムアミジン- N・Nージ ジエチルアミジン- N・Nージ ジプロピルアミジン- N・Nージ ジイソプロピルアミジン- N・Nージ ジメチルアセトアミジン- N・Nージ ジエチルアセトアミジン- N・Nージ ジプロピルアセトアミジン- N・Nージ ジメチルプロパノアミジン- N・Nージ ジエチルプロパノアミジン- N・Nージ ジプロピルプロパノアミジン- N・Nージ ジメチルブタノアミジン- N・Nージ ジエチルブタノアミジン- N・Nージ ジプロピルブタノアミジン |
別表第ニ条2 六項 | 用いられるもの | 用いるように設計されたもの |
別表第ニ条の二 | マチュポウイルス | マチュポウイルス、MERSコロナウイルス |
第五条八 | 光学的器械 | 光学的器械(オートコリメータを含む) |
第二十一条六~八 | 設計したプログラム | 設計又は改造したプログラム |
第二十一条十六、十七 | よって | よってのみ |
第二十一条2 十五 | モバイル決裁 | モバイル決済 |
詳しい内容は原典でご確認ください。
今回の改正はリチウムイオン電池には大きく影響がありませんでした。
しかし改正に基づいた書類の提出が必要になる場合もあります。
今後も何かしらの法改正があるかもしれませんので、経産省の告知に注意が必要かと思います。