リチウムイオン電池のコンサルティング

何でもご相談ください

詳しくはこちら

EU新電池規則の導入で何が変わるか~2024年より持続可能案件が適用

安全性・規格

2020年12月に欧州委員会が発表した「EU新電池規則案」は、2024年から順次導入される見通しです。
具体的な内容と、段階的適用年をまとめました。
※2023年6月14日に欧州議会は規則案を承認しました。欧州理事会が正式に承認した後発効します。
※2023年8月17日に新電池規則(New Batteries Regulation)が正式に発効しました。発効概要とEUの戦略的自律(strategic autonomy)について、こちらで解説しています。

何が変わるのか

新電池規則案について、以前の投稿では「ライフサイクル全体におけるCO2排出量=カーボンフットプリントの申告が必要になる」と、「電池指令(Directive)から、電池規則(Regulation)になり、各国内適用から直接案件となるため厳しくなる」と記述しました。
実際には、どうなるのでしょうか。

2022年の、欧州議会と欧州理事会の暫定合意は、2020年12月からの欧州委員会の提案をもとにしています。

目的と規定

目的

・EU市場に出回るすべての電池を、持続可能で循環的、安全にすること
・材料調達~収集、リサイクル、リユースに至るライフサイクル全体の持続可能化
・それによる循環経済
・無公害の推進
・バッテリー産業の発展
・欧州クリーンエネルギー移行

規定

回収・リサイクルの具体的な収集目標の設定
・材料調達の責任証明による、社会的・環境的リスク特定と軽減
カーボンフットプリントの申告義務
・カーボンフットプリント上限値の導入
・将来的には、バッテリーパスポートと相互接続されたデータベース管理



EU市場で製造・販売される電池の、製品設計から生産プロセス、再利用からリサイクルまでのライフサイクル全体を規定。
それにより、市場に出回る電池をより持続可能、循環的かつ安全にすることを目的とします。

対象バッテリー


EU市場で販売されているすべてのタイプのバッテリーに適用されます。

すべてのタイプのバッテリーのカテゴリ:

ポータブル電池portable batteries
LMT(輸送手段)バッテリー 電動スクーター、バイクなどの車輪付き車両に牽引力を供給するバッテリー
 Light Means of Transport 
SLIバッテリースタートバッテリー、照明、イグニッションのために電力を供給するバッテリー
Supplying power for starting, Lighting or Ignition of vehicles
EV(電気自動車)バッテリーelectric vehicle
産業用バッテリーindustrial batteries

電池指令は電池規則に置き換えられるので、すべてのタイプのバッテリーというのは、リチウムイオン電池だけではなく、一次電池、二次電池、蓄電池を含むすべての電池・蓄電池、廃電池・廃蓄電池を対象とする、ということでしょう。


規制実施、回収目標スケジュール

2024年以降、CO2排出量、リサイクル素材、性能、耐久性に関する要件を徐々に導入します。

規制実施

2024年7月1日から
・製造者、製造工場、ライフサイクル各段階のCO2総排出量、独立第三者検証機関の証明書などを含む、カーボンフットプリントの申告

2026年1月1日から
・ライフサイクル全体のCO2排出量識別を容易にするための性能分類表示

2027年7月1日から
・ライフサイクル全体のカーボンフットプリント上限値の導入
・コバルト、鉛、リチウム、ニッケルを含むEVバッテリー、産業用バッテリー、自動車蓄電池は、再利用された原材料使用料の開示を義務付け
・上記の再利用された同原材料のうち、それぞれの使用割合の最低値導入


製造および消費者がだした廃棄物、廃電池より回収された金属類(コバルト、鉛、リチウム、ニッケル)は、新しいバッテリーに再利用する必要があります。

資源回収

ポータブル電池回収目標
2027年 63%
2030年 73%

LMT(輸送手段)バッテリー回収目標
2028年 51%
2031年 61%

リチウム回収目標
2027年 50%
2031年 80%


また、リサイクル実施を前提に、製造者のバッテリー回収責任も追加されます。
モバイルバッテリーは2023年末までに45%、2030年末までに70%の回収を求めることになります。

EV、産業用バッテリー、自動車蓄電池は、新規購入に関係なくエンドユーザーから無料で収集されねばなりません。

詳細、これらの法案は今後審議されることになります。

2023年6月14日 欧州議会の承認内容

目的:バッテリーを、より持続可能に、より耐久性があり、より優れた性能にする

・廃棄物収集、リサイクル、材料回収に対する厳しい目標
・持続可能性、性能、ラベル表示要件が厳格化
・社会及び環境リスクに対応するためのデューデリジェンスポリシー
・家電製品のポータブル電池交換を容易に

2023年欧州議会承認の具体的な内容

➤EV、LTM、および2kWhを超える充電式産業用バッテリーに対するCO2排出量提示とラベル、デジタルバッテリーパスポート

➤家電製品ポータブル電池を、消費者自身が簡単に取り外し及び交換できる設計を行う
(※これは、スマートフォン、タブレット端末などのデバイスを含む可能性があります)

➤中小企業を除くすべての経済事業者に対する、デューデリジェンスポリシー
(Due diligence は企業の社会的責任における人権配慮をはじめ当然実施すべき義務及び努力、という意味と、企業買収や合併のために必要な資産調査の意味があります。たぶん前者を指しています)

収集目標
ポータブル電池
2023 45%
2027 63%
2030 73%

LMT
2028 51%
2031 61%

回収材料
リチウム
2027 50%
2031 80%

コバルト・銅・ニッケル
2027 90%
2031 95%

新規電池のリサイクル含有量のミニマム量
規制発効から8年
コバルト 16%、鉛 85%、リチウム 6%
発効から13年後
コバルト26%、鉛85%、リチウム12%、ニッケル15%。



情報開示:バッテリーパスポート

cytisによるPixabayからの画像


LMTバッテリー、EVバッテリー、容量が2kWhを超える充電式産業用バッテリー(SLIバッテリー含む)は下記を必要とする

バッテリーパスポート:
バッテリーの性能・耐久性、カーボンフットプリントに関する情報の記録
その開示、データへのアクセス確保(QRコード利用を想定)



ここで、電池パスポート(バッテリーパスポート)が出ました。

ECの規定するバッテリーパスポートが、GBAの推進するバッテリーパスポートと同一かどうかはわかりませんが、情報内容としてはほぼかぶっていると考えていいと思います。
つまり、GBAの電池パスポート自体はEVバッテリーを対象としていますが、EVバッテリー以外にもEUで販売する電池に電池パスポートが必要になってくるケースがある、ということになります。

参考:
欧州委員会のリリース
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_22_7588

JETROビジネス短信
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/12/12e41e15f44c73df.html
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/12/47bc18d866bce008.html



経済圏における市場ルール

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

前提は、リサイクル、透明化、持続性、であり、消費者の安全性とEU全体でのリサイクル産業の構築、最終的な目的は、EU全体において競争力のある産業部門を構築すること、です。

クリーンエネルギーへの移行や安全、透明性など、”いいこと”を前提に市場ルールを定め、結果的に自己利益を得ようというEUらしいやり方です。EU経済圏が構築するルールにおいて、今後日本を含むアジア経済圏が振り回されず上手く利用していけるかというところです。
米国はEU規定をある程度利用しつつ、米国およびカナダで自国利益ルールを強化していくでしょうか。

グローバル市場において、中国独自の動向もあり近隣アジアが一つの経済圏になるのは難しそうですが、勝海舟の「争ったりせず協力し、西洋がきづかぬうちに東洋経済圏を作って対抗すればいいのだよ。経済がなければどうにもならぬ」は、120年以上前の慧眼であったなあと感心しています。




タイトルとURLをコピーしました