EVに搭載するバッテリーの情報を開示する「電池パスポート(battery passport)」が2026年にも欧州で義務化される見通しです。
電池パスポートとは何か、現在わかる範囲で解説します。
※2023年6月21日、NIKKEI ASIAによると、ホンダ、フォードを含む120社以上の企業からなるMOBIコンソーシアムは、ブロックチェーンベースのバッテリーパスポート策定に向け企画草案を策定しました。 VWやシーメンスを含むライバル企業コンソーシアムCatena-Xも策定を進めています。
Catena-XはGBAと連携し、相互運用を目指しています。各々の企画によりバッテリーパスポートを策定運用する業界団体が並立して連携、共存しそうです。
また、EUは電池指令を新電池法にし、バッテリーパスポートを義務化する方針です。
電池パスポートを推進するGBAとは
電池パスポートとは、GBA(Global Battery Alliance) が推進する新しいソリューションです。
GBAは、テスラなど自動車メーカー、LGエナジーソリューションやCATLなどセルメーカー、グレンコアなど鉱山開発会社をはじめバッテリーサプライヤーチェーンに関与する120以上の企業で構成される業界団体です。
主な参加者はほかに、アウディ、BASF、ユーラシア・リソーシズ・グループ(ERG)、ユミコア、フォルクスワーゲンAGなどがあります。
GBAは、2030年までに持続可能なバッテリーバリューチェーンの確立を目標とし、支援しています。
2023年1月のダボス会議で、GBAはバッテリーパスポートのコンセプト実証を開始。アウディ、テスラ、およびそのバリューチェーンパートナーからのサンプルデータによりプロトタイプのデータ収集例を発表しました。
バッテリーパスポートのコンセプトは2021年G7首脳会議、EUバッテリー規制、カナダと米国の行政機関により承認されています。
2026年までにEUで必須要件となり、ほかの地域もそれに続く可能性が高くなります。
EUのバッテリー関連規格にはすでに、CE、RoHS指令、WEEE指令、電池指令(2020年EU新電池規則案)、EU新電池規則があります。
残念ながら、日本の自動車メーカーはGBAに参加していません。
サプライチェーンとバリューチェーンの違い
サプライチェーンとバリューチェーンという言葉が出てきましたので、改めて違いを整理しておきます。
サプライチェーンが経済商流連鎖の枠組み(フレームワーク)を指すのに対し、バリューチェーンは価値連鎖における付加価値分布です。
価値が効率、コスト、倫理、経営など何を指すかはフレームワークによって異なると思われますが、電池パスポートの場合、「持続可能」な価値創造を目的としている、となります。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーンとは、暗号技術を使ってリンクされた電子的な台帳をさします。情報を記録するデータベース技術の一種で、ブロックと呼ばれるデータごとに管理し、鎖のように連結して保管します。ビットコインなど暗号資産に用いられています。
連結するブロックからブロックへ、ハッシュ値と呼ばれるダイジェスト記録が残るため、一部を改竄しようと整合が取れなくなり、不正を防ぐことができます。
ブロックチェーンベースのバッテリーパスポート策定、とは、この「不正な記録の書き換えが不可能な電子台帳を用いた、持続可能なバリューチェーンに寄与する電池の記録」ということになります。
バッテリーパスポートのコンセプトとは
GBAのウェブサイトからバッテリーパスポートに関するページと記述を一部引用してみましょう。
バッテリー パスポートは、持続可能なバッテリーの包括的な定義に基づいて、該当するすべての持続可能性とライフサイクルの要件に関する情報を伝達する、物理的なバッテリーのデジタルツインを確立します。
https://www.globalbattery.org/battery-passport/
物理的なバッテリーのデジタルツインが何を指すのかというと、
これは、材料の出所、バッテリーの化学組成と製造履歴、およびその持続可能性パフォーマンスに関するすべてのライフサイクル関係者の間で信頼できるデータを収集、交換、照合、および報告することにより、グローバルなバッテリーバリューチェーンに新たなレベルの透明性をもたらすことを目的としています。
https://www.globalbattery.org/battery-passport/
わかるようなわからないような、です。
もう少し具体的に読み込んでみます。
具体的に何をするのか
バッテリーパスポートの具体的な構成要素
- ESG(環境Environment・社会Social・ガバナンス/管理Governance)パラメータの測定、監査、報告に関するルール管理の国際的方法論
- ESGパフォーマンス、製造履歴、来歴に関するデータなどを含むバッテリーのデジタルID
- バリューチェーン全体で提携するデジタルシステムのデータをバッテリーパスポートへ報告
- 最終的には、持続可能パフォーマンスに基づく品質シールをエンドユーザーに提供する
- それにより消費者の責任ある購入を促進する
まとめ
バッテリーパスポートは、電池を構成するすべての材料が採掘から加工、組み立てまでどこから来ているかを明確にし、透明化し、開示するシステムです。
業界団体GBAにより推進されています。
例えば、鉱山から自動車メーカーまでのバリューチェーンの中で、バッテリーの二酸化炭素排出量など温室効果ガスに対する技術的なデータ、児童労働など人権指標に対する規則と報告を含む追跡が可能になります。
非常に簡単にいうと、EVのバッテリーが採掘から組み立て、販売されるまで、環境負荷、人権尊重を含む規則に関する情報を、トータルでデータ報告を義務づけ、収集し、ライフサイクルを「明確に追跡し、持続可能性を高める」ための透明性をもたらすシステムのルール化、ということのようです。
バッテリーパスポートのインフラを設計し実施するには、ITソリューションプロバイダー、規制当局、企業、監査人、公的機関、国際組織、非政府組織を結びつけるアプローチが必要です。
それにより、バリューチェーン全体で電池による社会の持続可能化を進めることになります。
このシステムが本当に有効に機能するかはわかりません。しかし、「やる」という姿勢を押し出してきている以上、対応が遅れた自動車メーカーは、グローバル市場でのEV販売が難しくなる可能性がありそうです。
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