2023年8月17日、EUの新しいバッテリー規制(New Batteries Regulation)が発効しました。
内容は2024年2月8日から大部分が適用され、2027年までに電池指令要件に置き換えられます。
電池規制か、電池規則か、バッテリー規則/規制か日本語表記の正解は不明ですが、バッテリーレギュレーションの意味としてはどれも妥当です。
当サイトではこれまで、RoHS指令と電池指令、EU新電池規則案について、EU新電池規則の導入で何が変わるか、など、EUのバッテリー令を随時解説してきました。
流れと詳細はそちらで確認していただけますが、ついに新電池規則が発効しましたので、もう一度概要と最終目的であるEUの戦略的自律(strategic autonomy)を解説します。
EU新電池規則の目的
・二酸化炭素排出量の低減
・有害物質の使用の抑制
・非EU諸国からの原材料調達の削減
・欧州で電池を収集・再利用・リサイクル
→循環経済への移行
→エネルギー供給の安定安全強化
→EUの戦略的自律の強化 (enhance the EU’s strategic autonomy)
欧州委員会:バッテリー新法に関するニュース
https://environment.ec.europa.eu/news/new-law-more-sustainable-circular-and-safe-batteries-enters-force-2023-08-17_en
欧州グリーンディールの目標に沿って、電池規則は、調達、製造、使用、リサイクルの循環型バッテリーライフサイクルを一つの法律により規定しています。
目的は、欧州の技術・財務・業界横断のアプローチにより、競争力と持続可能生産力のあるバッテリー製造バリューチェーンの構築です。
実際に欧州委員会ではそのように告知しています。
バッテリー需要は、2030年までに全世界で14倍に増加すると見込まれており、EUがその17%を占める可能性がある、と欧州委員会は述べています。
また、EVバッテリーを定置型蓄電池など二次時利用する方向もあります。この市場は2033年までに70億USDに達すると予想されています。
そこで世界的に競争力のある電池バリューチェーンを構築し、供給するため、2017年に欧州バッテリーアライアンス(European Battery Alliance)を立ち上げました。欧州バッテリーアライアンスは、2025年までに市場規模は年間2500億ユーロになると推定しています。
これらが意味するところは、欧州は一つの経済圏としてバッテリーの大きな市場をつくりあげ、世界経済への競争力を確保するとともに、戦略的自律(strategic autonomy/ストラテジック・オートノミー)を強化する、という確固たる長期的目的の一環として、電池規則を発効しているということです。
具体的な内容
内容は以前の投稿でも触れていますが、ざっくりまとめます。
バッテリーの定義
5つのカテゴリーになります。一次電池、二次電池、鉛電池等すべてのバッテリーが対象です。
・ポータブルバッテリー ※密閉型・重量5㎏以下
・軽輸送手段用バッテリー(LMTバッテリー)
・始動、点灯、点火用バッテリー(LSIバッテリー)
・産業用バッテリー
・EV用バッテリー
カーボンフットプリントの申告
EV用バッテリー、LMTバッテリー、特定の充電式産業用バッテリーは二酸化炭素排出量の申告が必要になります。
回収金属の文書要求
コバルト、鉛、リチウム、ニッケルを含む特定のバッテリーには、回収された金属の割合に関する文書が要求されます。
交換の必要性
ポータブルバッテリーとLMTバッテリーは簡単に取り外して交換できる構造が必要です。
2027 年から、消費者はバッテリーを取り外したり交換したりできるようになり、廃棄されるまでの製品寿命に貢献します。
※スマホやタブレット端末も?という具体的な内容はまだ確実にはわかりません。しかし、いずれそうなるという予測も必要です。
ラベル情報
製造元、バッテリーカテゴリ、容量、ゴミ箱マークなど一般情報を含むラベル添付が必要です。
すべてのバッテリーにはQRコードが添付されます。QRコードからは詳細情報が提供され、消費者の決定権に寄与します。また、CEマークが必要です。
バッテリーパスポート
EVバッテリー、LTMバッテリー、2kWhを超える産業用バッテリーはデジタルバッテリーパスポートが必要です。
デューデリジェンスポリシー
中小企業以外のすべての経済事業者に対して、バッテリーのデューデリジェンス義務が課されます。需要増加が、社会的・環境的リスクの増大になってはなりません。
その他、パフォーマンスと耐久性の要件、定置型蓄電システム安全要件、サイクルとパフォーマンスのバッテリー管理システム、バッテリーの回収義務など、拡大生産者責任(Epr)があり、また、要件の内容は時間の経過とともに強化される予定です。
EUの戦略的自律性
戦略的自律性(strategic autonomy)とは、国家が他国に大きく依存することなく国益を追求し、好ましい外交政策を採用する能力です。
欧州においては、米国の外交政策から独立した政治的自治を得るため、米国に過度に依存せず欧州を防衛し、軍事的に行動する欧州連合の能力を指します。
EU の戦略的自律は、直接的な軍事行動能力のみではなく、経済、エネルギー、デジタル政策、Gaia-Xなどの取り組みを含む概念です。中国に対する欧州の主権も含みます。ロシアのウクライナ侵攻は、欧州の戦略的自治に対する試練であり、米国の支援に依存せず防衛を強化するべき、とフランス・マクロン大統領とフィンランド・マリン元首相は述べています。
https://en.wikipedia.org/wiki/Strategic_autonomy
これら戦略的自律性(strategic autonomy)が、EU経済圏の長期的な構築における、電池規則の背景です。
日本はリチウムイオン電池を世界で最初に量産し、シェアにおいて技術的アドバンテージがあったものの、EVやスマートフォンをはじめ新しいモビリティ/エネルギーの巨大市場からは後れをとっています。
日本の経済文化圏において、軍備的防衛への志向は拡大していますが、経済・食料・エネルギー・デジタル、つまり生活の根幹を強化し対外的に備えるという戦略的自律への取り組みはかなり弱いように感じられます。
2020年に提案され、2027年までのスパンで電池指令に置き換えられる、EUの新電池規則。
2006年版電池指令は、リサイクル要求が主でしたが、より大きな目的と利益を視野に入れています。
EU電池規則の構築にいたる背景からは、長期的な目的到達と手段において何らかの学びが得られるのではないでしょうか。