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リチウムイオン電池の電解液とは ~電池性能のキー要素、今後の開発と市場動向

用語・市場・評価

なぜ電解液が重要なのか

リチウムイオン電池の構成要素の中で、正極活物質はエネルギー密度を高める最も大きな要素です。
主にニッケル、コバルト、マンガンの三元系、リチウムやマンガンや鉄、シリコンなどの配合比率により電池性能がどの方向へ向かうか、ほぼ決まります。

しかし、リチウムイオン電池は化学反応によってエネルギーを発生させるため、正極と負極間のリチウムイオン移動がスムーズでなければ、活物質の組成を活かせません。

その移動のキーとなるのが電解液です。

電解液と電解質の違いは、電解質は溶媒中に溶解した際に陽イオンと陰イオンに電離する物質です。ここでは、わかりやすくするため電解質と溶媒を含めたすべてを電解液と呼ぶことにします。
簡単に、電解液の役割と現在および今後の市場動向について解説します。

電解液の役割


リチウムイオン電池の構造と仕組みでも触れましたが、充放電時の正極・セパレータ・負極とリチウムイオンの状況は以下の図のようになっています。
電解液は液状で、セパレータおよび電極活物質に含侵(がんしん)しており、リチウムイオン電池が充電または放電されると、電解液の中をリチウムイオンが遊動(ゆうどう、自由に移動)し正極と負極の間を移動します。
つまり、リチウムイオンは、電解液という専用のネットワークを通って行き来するデータのようなものです。

電解液の性能は、いわばこのネットワーク接続がどれだけ速く安定した通信速度でデータ(リチウムイオン)を運べるかということです。
最新デバイスを持っていても、通信接続が弱くては機能を活かせませんよね。電池にとっていい電解液はいい通信回線と同様の役割を果たします。電解液=通信環境が劣化しないことも大事です。

電解液がリチウムイオン電池に与える影響

急速充電

電解液の伝導性が高く、高速で効率よく多くのリチウムイオンを移動させることができれば、短時間での充電が可能になります。

低温耐性

リチウムイオンを移動させるツールである電解液は、液体なので温度により性能が左右されます。あらゆる分子がそうであるように、温度が下がると運動性が低下し、それに伴い当然のことながら性能が低下します。
低温、高温いずれの環境でも、電解液が安定していてこそ、電池は動くことが出来ます。

科学的安定性

どのような状況でも電解液に化学的副反応が起きないことが大切です。安定性のために添加剤が加えられています。

サイクル寿命

リチウムイオン電池は、充放電を繰り返すと、次第に電解液が劣化して、ガスを発生させるなどの致命的な状態に至ることがあります。安定して、かつ分解劣化が遅い電解液は電池のサイクル寿命に大きく影響を与えます。

安全性

サイクル寿命と同じ理由から、安全性にも大きく影響してきます。

電解液の組成

電解液は主に、リチウム塩、有機溶媒、および添加剤で構成されています。
構成比率は、有機溶媒が約85~90%、リチウム塩が約10%、+添加剤、であり溶媒が多くを占めます。

代表的なリチウム塩: 六フッ化リン酸リチウム/LiPF6
代表的な有機溶媒:  エチレンカーボネート/EC、ジメチルカーボネート/DMC、ジエチルカーボネート/DEC、EMC
添加材: ビニレンカーボネート/VC

  • リチウム塩の役割 リチウムイオンを運ぶ電解質。
  • 溶媒の役割 リチウムをリチウム塩に溶かす溶媒。粘度と誘電率のバランスが重要
  • 添加材 電解液の安定性に寄与する。少量だが性能に大きくかかわる

これらの配合ノウハウが、電池の性能に大きく関係します。電池構成要素の中でも、電解液の組成はブラックボックスであり、電池開発の内容に関わる秘匿事項となっています。

全固体電池と電解液

次世代のリチウムイオン電池として、以前から話題になっている全固体電池は、電解液が固体電解質である電池です。
不燃性の固体電解質が正極と負極をへだてるため、外部からの衝撃に強く、ガス発生やリチウム析出による短絡と発火の危険が低減されます。
ただし、2022年の現在では、まだ大量生産技術は確立せず、価格が市場競争にみあう段階には達していません。

電解液市場

世界の電解液市場は2020年の調査では規模37.5億ドル、中国がトップスリーを占めています。
上位シェアより、広州天賜、新宙邦、張家港国泰華栄、です。(富士経済「電池関連市場実態総調査」より)

しかしながら、第4位には日本のMUアイオニックソリューションズ(三菱ケミカルグループ)が食い込んでいます。
今後10年で電解液の需要は10倍以上に上昇するだろうと予測されています。
電解液のノウハウがリチウムイオン電池性能に大きく関係し、全固体電池に匹敵する可能性もあること、また、リチウムイオン電池市場が今後数十年は拡大を続けるだろうことを考えると、日本企業の開発と進化を期待するところです。
また、テスラ社やVW社が先行しているドライ電極技術においても、電極内の導電パス(電子伝導の確保)や電極内のイオン拡散をスムーズに行うためにも電解液の特性は鍵となり、近未来の電池における重要な役割を担うことになるでしょう。


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