リチウムイオン電池、バッテリー製品を輸出する際に、安全保障の観点で書類を求められる場合があります。そのひとつが輸出貿易管理令に基づいた該非判定書(非該当証明書)です。
2025年3月に「外国為替令及び輸出貿易管理令の一部を改正する政令」が公布され、2025年5月28日に施行されました。その内容を確認してみます。
また、2025年10月9日施行予定の安全保障貿易管理制度の見直しについても記載します。
外国為替及び外国貿易管理法とはなにか、法体系、リスト規制、キャッチオール規制の内容とリチウムイオン電池について、詳しくはこちらの記事で解説していますので、ぜひお読みください。
2025年、輸出貿易管理令の一部変更の目的
外為法と輸出令は、わが国が対外取引を行うにあたって、安全保障の観点から貿易を管理するための法律です。
外国為替及び外国貿易管理法、(略称:外為法)という法律があり、その下に、輸出貿易管理令(略称:輸出令)と外国為替令(略称:外為令)などの政令があります。
今回の改正概要について、経済産業省のウェブサイトを引用します。
○我が国では、国際的な平和及び安全の維持のため、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、重要・新興技術として規制対象となる貨物の輸出や技術の提供について経済産業大臣の許可を受ける義務を課している。
○国際的な協調の下、責任ある技術保有国として、国際的な状況を踏まえ、重要・新興技術の軍事転用防止を目的に、関連する特定の貨物及び技術を輸出管理の対象に追加し、併せて技術的な仕様の見直し等(ワッセナー・アレンジメント等での一致を踏まえたものを含む。)を行うため、外為法第25条第1項又は第48条第1項に基づく許可を要する貨物・技術について、「外国為替令」別表、「輸出貿易管理令」別表第1及び「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」及び関連通達の所要の改正を行う。https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/20250328_ristshiryou.pdf
リチウムイオン電池製品に関連する条項は、「輸出貿易管理令別表第1又は外国為替令別表」です。
2025年5月28日施行の省令改正点
- 輸出令(別表第1) 2の項(5):原子力
「分離用・再生用装置」等の解釈の明確化【規定の明確化】
照射済み核燃料物質等の「分離用・再生用装置」につき「硝酸に対して耐食性を有する」こと、「中性子測定装置」を「制御装置」に含める等の明確化 - 輸出令(別表第1) 2の項(10):原子力
「蒸留塔」の仕様の改正【規制の強化】
「蒸留塔」に係る仕様(材料、温度、圧力)を改正 - 輸出令(別表第1) 2の項(17):原子力
ロータに用いられる「構造材料」の仕様の改正【規制の強化】
ガス遠心分離機のロータの仕様(内径「400mm→650mm未満」、厚さ「12mm以下」追加)を改正 - 輸出令(別表第1) 2の項(49):原子力
「白金触媒」の仕様の改正【規制の強化】
・白金触媒の仕様(疎水性の触媒であること等)を改正 - 輸出令(別表第1) 3の項(1):化学兵器
「ジプロピルアミン」の追加【規制の強化】
・化学製剤の原料物質として「ジプロピルアミン」を追加 - 輸出令(別表第1) 3の項(2):化学兵器
「空気中の物質を検知する装置」の仕様の改正【規制の明確化】
・「空気中の物質を検知する装置」の仕様を改正した。これにともない、関連する運用通達の解釈の追加をした。 - 輸出令(別表第1) 3の2の項(1):生物兵器
「ネオサキシトキシン」の追加とワクチンの解釈【規制の強化】
・毒素として「ネオサキシトキシン」を追加。 - 輸出令(別表第1) 5の項(18):先端材料
繊維等の製造装置の仕様の改正【規制の緩和】
・繊維等の製造装置の仕様(対象となる繊維の限定)を改正 - 輸出令(別表第1) 5の項(19):先端材料
・「五ふっ化よう素」の追加【規制の強化】 - 外為令(別表) 5の項(8):先端材料
「赤外線」の追加【規制の明確化】
・「電波の吸収材」に「赤外線」も含まれることを明確化 - 外為令(別表) 6の項(6):材料加工
「高温コーティング技術」の追加【規制の強化】
・セラミック複合材料に係る「高温コーティング技術」を追加 - 輸出令(別表第1) 6の項(10):材料加工
「金属積層造形装置」の追加【規制の強化】
・「金属積層造形装置・その部分品」を追加 ※運用通達が詳細です - 輸出令(別表第1) 7の項(1):エレクトロニクス
「先端ICチップ」の追加【規制の強化】
「先端ICチップ」を追加 ※運用通達が詳細です - 輸出令(別表第1) 7の項(2):エレクトロニクス
「パラメトリック信号増幅器」の追加【規制の強化】
「パラメトリック信号増幅器(極低温アンプ)」を追加 - 輸出令(別表第1) 7の項(2):エレクトロニクス
「ハーモニックミクサ」等の仕様の改正【規制の強化】
ハーモニックミクサ・コンバータの仕様(周波数帯域「90ギガヘルツ→110ギガヘルツ」等 - 外為令(別表第1) 7の項(3):エレクトロニクス
ソフトウェアの追加【規制の強化】
・「先端パッケージング用のECADプログラム」「マルチパターニング技術を用いた集積回路製造用のECADプログラム」「計算機リソグラフィプログラム」を追加 - 輸出令(別表第1) 7の項(12):エレクトロニクス
「信号発生器」の仕様の改正【規制の強化】
信号発生器の仕様(周波数帯域「90ギガヘルツ→110ギガヘルツ」)を改正 - 輸出令(別表第1) 7の項(13):エレクトロニクス
「スペクトラムアナライザー」の仕様の改正【規制の強化】
周波数分析器のスペクトラムアナライザーの仕様(周波数帯域等)を改正 - 輸出令(別表第1) 7の項(14):エレクトロニクス
「ネットワークアナライザー」の仕様の改正【規制の強化】
ネットワークアナライザーの仕様(動作周波数帯域、出力等)を改正 - 輸出令(別表第1) 7の項(15の3):エレクトロニクス
「極低温冷却装置」の追加【規制の強化】
「極低温冷却装置・その部分品」を追加 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「エピタキシャル成長装置」の仕様の改正【規制の強化】
エピタキシャル成長装置の仕様(化合物半導体の元素に「酸素」を追加)を改正 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「異方性ドライエッチング装置」の仕様の改正【規制の強化】
・高速ガス切替弁の切り替え時間を300ミリ秒から500ミリ秒へ変更
・静電チャックの個別温度制御領域数を20から10へ変更 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「成膜装置」の仕様の改正【規制の明確化】
・水素、水素と窒素の混合物、アンモニアである旨を明確化
・プラズマによる表面処理を行うことを明確化 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「成膜装置」の仕様の改正【規制の強化】
真空状態又は不活性ガスの環境を維持する条件を削除。 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「エピタキシャル成長装置」の仕様の改正【規制の強化】
・シリコン又はシリコンゲルマニウムにおいて、「炭素を添加したものを含む」を削除
・真空状態又は不活性の環境を維持する条件を削除 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「成膜装置」の仕様の改正【規制の緩和等】
・カーボンハードマスクの仕様のうち、厚さの値を改正。
・カーボンハードマスクの仕様のうち、応力の条件から密度の条件へ改正。 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「プラズマドーピングイオン注入装置」の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「露光装置のアップグレードのための装置」の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「インプリントリソグラフィ装置」の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「エッチング装置」の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「パターンシェイピング装置」の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
成膜装置の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「アニール装置」の追加【規制の強化】
・レーザーなどを用いて熱処理をする「アニール装置」を追加 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「超臨界二酸化炭素洗浄装置」の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「ウエハー欠陥検査装置」の追加【規制の強化】
・「ウエハー欠陥検査装置」を追加 - 輸出令(別表第1) 7の項(16):エレクトロニクス
「重ね合わせ精度計測装置」の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 7の項(17):エレクトロニクス
「EUVマスク」等の追加【規制の強化】
「EUVマスク・レチクル」を追加 - 輸出令(別表第1)7の項(18)(24)(25):エレクトロニクス
「シリコン・ゲルマニウム基板」等の追加【規制の強化】
「同位体分離シリコン・ゲルマニウム基板又は原料」を追加 - 輸出令(別表第1) 8の項:コンピュータ
「デジタル電子計算機」に解釈の改正【規定の明確化】
デジタル電子計算機に係る解釈につき、「部分品→電子組立品」と改正 - 輸出令(別表第1)8の項:コンピュータ
「先端ICチップを有する電子計算機」等の追加【規制の強化】
「先端ICチップを有する電子計算機又はその組立品・部分品」を追加 - 外為令(別表) 8の項(1):コンピュータ
「先端ICチップを有する電子計算機等」に係る技術の追加【規制の強化】 - 輸出令(別表第1) 9の項(7):通信
「スマートカード」等の仕様の改正【規定の明確化】
「スマートカード・リーダライタ」に係る規定の明確化等 - 輸出令(別表第1) 12の項(2):海洋関連
「船舶用伝動装置」の仕様の改正【規制の緩和】
船舶の部分品である伝動装置の仕様(出力「2メガワット→10メガワット」等)を改正 - 輸出令(別表第1) 13の項(3):推進装置
「極低温用冷却装置」等の仕様の改正【規制の強化】
液体ロケット推進装置の部分品である極低温冷却装置等の仕様(液体損失の割合、温度等)を - 輸出令(別表第1) 15の項(5):機微品目
「えい航ハイドロホンアレー」の解釈の改正【規定の明確化】
貨物等省令第14条第6号ロ(二)に適用していた解釈を同号ロ(一)にも適用する
省令・運用調達の詳細
令和7年5月
経済産業省 貿易経済安全保障局によるPDFをご確認ください。
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/20250328_ristshiryou.pdf
2023年、2024年の一部改正
2024年の改正は輸出管理対象品目の追加(下記)と既存品目の仕様等の見直しでした。
・相補型金属酸化膜半導体集積回路
・走査型電子顕微鏡(半導体素子・集積回路の画像取得用のもの)
・量子計算機
・多層 GDSⅡデータを生成するプログラム(上記走査型顕微鏡関連技術)
・GAAFET 構造の集積回路等の設計・製造に必要な技術
2023年の改正
輸出令別表第2に掲げられている貨物に関する輸出の承認
https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=35527953
2022年の改正
2025年10月9日施行 安全保障貿易管理制度の見直し
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/20250409_catchallshiryou.pdf
安全保障貿易管理制度は、国際的な平和と安全を妨げる可能性がある場合、輸出者に経済産業大臣への許可申請を義務付ける制度です。
規制は「リスト規制」と「キャッチオール規制」に分かれます。
- デュアルユース技術の拡大や軍民融合の進展により、汎用品の軍事転用リスクが高まっている。
- 同盟国・同志国との連携強化が必要。
- 通常兵器キャッチオール規制を見直し、懸念の高い取引に対する許可申請を義務付ける新制度を導入。
具体的な変更点
- 通常兵器キャッチオール規制に「用途要件」と「需要者要件」を追加。
- 特定品目(工作機械、集積回路、無人航空機部品など)に関する規制を強化。
- 「明らかガイドライン」を改定し、取引の透明性を確保。
- 正規軍向け輸出や武器付随品の輸出に関して、特別一般包括許可を適用。
- 懸念国による迂回調達防止のため、グループA国向けでも通知制度を導入。
新制度は2025年10月9日に施行予定です。
リチウムイオン電池には関係あるか
リチウムイオン電池セルに関わる点は変更がないように思われますが、保護回路つき電池パック、機器組込電池パック、バッテリー製品など、ものによっては影響がありそうです。
念のため詳細を確認したほうがいいでしょう。
該非判定書フォーマット
該非判定書(非該当証明書)のフォーマットは下記の経産省サイトページからダウンロードできます。
該非判定は誰が行うか
該非判定書を作成するのは、製品のメーカーです。メーカーが内容に責任を持ちます。
ただし、輸出入を行う者が製品メーカーではない場合も同じく内容に責任を負うことになります。