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電池漫談(2)~過放電した電池の再利用~ (←危険な行為です)

コラム

最近Youtube等で『リチウムイオン電池0Vから復活する方法』といったような動画を目にすることがあります。
このような誤った情報により事故が増えなければ良いなぁと思いながら観ています。
このページをご覧になる皆さんはご存じのように、リチウムイオン電池には様々な保護回路(過充電保護、過放電保護、温度ヒューズ、0V禁止保護、バランス回路)などが付いており、
危険な状態を避けることを目的としています。

過充電保護、過放電保護、温度ヒューズ、バランス回路は何となく想像がつくと思います。
はて、『0V禁止保護』って何?って思われる方が多いかもしれません。

リチウムイオン電池を使った機器設計をされている方の中には、
そもそも過放電保護が付いているから0V禁止は不要ではないかと思う方も少なくありません。

過放電保護
過放電保護というのは、電池の使用可能電圧範囲から設定されるもので、SOC(State Of Charge/電池の充電状態)でいうと0%~5%程度を切るぐらいで設定されることが多いです。
この0%~5%というのは、これ以上の放電をすると電池を痛めてしまう可能性があるため、強制的に保護を掛けるものとなります。(あるいは上位機器に放電停止しましょうと、指令を上げる)

0V禁止保護とは
それでは、0V禁止保護というのはどういった場合に機能するものなのでしょうか。

リチウムイオン電池は自己放電により電圧が下がる傾向があります。(中には自己放電が非常に小さく、10年以上経っても殆ど自己放電しない電池もあります。)
特に長期保管(量販店での在庫、使用しない場合の保管)の際には注意が必要でしょう。
通常のリチウムイオン電池/リチウムポリマー電池には保護回路が搭載されており、その保護回路自身の自己消費により10μA程度の電流が回路に流れています。
この10μAの電流量、小さい容量の電池では決して無視できません。

仮に10μAとすると、
1日あたりで10μA×24H=0.24mAh
一カ月で0.24mAh×30=7.2mAh
半年では43.2mAhの自己消費となってしまいます。

ここに電池そのものの自己放電が加わりますので、合計で50mAh~100mAh程度の自己消費となる可能性があります。

ここで気を付けて頂きたいのが、電池を使い切ったまま放置してしまった場合、自己消費により0%の電圧よりもどんどん下がっていき、電圧が2Vを切ってしまうことも想定されます。

さて、過放電による電池への影響ですが、下記のような事象が確認されています。(100%起こるわけではなく、事象が発生することが分かっています)

1)ガス発生 (電気化学的な反応で説明可能)
2)負極の銅箔からの銅イオンの析出 (電気化学的に説明可能)

上記の1)において、ラミネート型(パウチ型)電池の場合は電池が膨れてしまい、(感覚的に)壊れてしまいもう使い物にならないなぁと判断し、処分することは容易にできると思います。
その反面、2)の場合はどうでしょうか。
18650タイプの場合、外的変化は確認することができず、電圧が下がっているだけで、再充電できればラッキーという感覚を持つ方も多いと思います。
(私も貧乏性なので、このタイプの人間です。)
電解液への銅イオンの析出は、再充電されなければ何も害はありませんから、電池の知識を持ち合わせていなければシレっと再充電するでしょう。

しかしながら、再充電により銅イオンが悪さをすることになります。
電解液中にある銅イオンが、充電によって負極電極上に析出されます。
問題は、どのような形状で負極上に析出されるかです。
糊状に均一な状態で析出されれば、大きな問題には至らず何も無かったことになります。
部分的に偏在する析出(電流集中が起こっているような箇所、異物混入による析出ポイントの存在)が起こると、
銅の析出+リチウム金属の析出が発生する可能性が高くなります。
その際、銅/リチウム金属の析出が突起をもった形状になってしまうと、セパレータを突き破り正極と負極が触れて内部短絡へと至ります。

この現象がエネルギーを持っていない状態で起こればよいのですが、
充電中に起こることが多いのが実情です。
・リチウム析出は充電中に起こる。
・充電により負極電極の膨張、電池内部の内圧が上がり正極/負極の距離が縮まるため

充電中に起こってしまうと、常に外部からエネルギー補給をしている状態ですので、大きな事故に至ってしまう可能性が高くなります。

さて、話を戻そうと思いますが、このような事故を起こさぬよう開発されたのが0V禁止保護となります。


0V禁止保護は、設計により電圧が異なります。
過放電状態でも再充電OK
過放電状態なので再充電NG
再充電OK、再充電NGの判断は、銅の析出反応が起こる電圧を加味したもので、正極・負極の組み合わせにより異なります。

0V禁止の保護回路が付いている電池であれば問題ありませんが、Youtube動画でよく見るのは保護回路無しの裸のセル(かつ、中古バッテリーから取り出したもの、1V以下で長期停滞しているもの)
が多く、銅の析出が起きている可能性が極めて高いと推測されます。

破裂・発火の事故に至っていないのが幸いで、極めて危険な実験になるので興味本位で使用するのは是非とも控えて頂きたいと思います。


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