リチウムイオン電池は現在、スマートフォンや家電、電気自動車をはじめ日常生活に欠かせないものになっています。
しかし、リチウムイオン電池の重要性が高まるにつれ、コバルト、ニッケル、リチウムなど限られた原材料の将来的な懸念も出てきました。
そこで、代替品として様々な蓄電池が注目され始めています。その有力な候補であるナトリウムイオン電池について簡単に解説します。
ナトリウムイオン電池とは
ナトリウムイオン電池とは、ナトリウム(Na)を用いた二次電池(繰り返し充放電可能な電池)です。
英語では、sodium-ion battery、またはSIB、NIB、Na-ion batteryともいいます。
リチウムイオン電池と動作原理や構造が似ており、リチウムの代わりにナトリウムが挿入イオンとなります。
ナトリウムはドイツ語です。英語ではソディウム、ソーダともいい、ソーダはナトリウム化合物を指します。
身近なところでいうと、食塩はNaCl(ナトリウム+塩素)です。
炭酸ナトリウムはNa2CO3(ナトリウム+炭素+酸素)、炭酸水素ナトリウムはNaHCO3(ナトリウム+炭素+水素+酸素)で、ガラスや重曹などの工業製品に用いられています。
ナトリウムはリチウムと同じ周期表のグループに属しており、近い性能に達する電池をつくることができます。
ナトリウムは地球上で6番目に豊富な元素で、入手が容易です。炭酸ナトリウム製造コストは炭酸リチウムよりはるかに安く、また、ナトリウムイオン電池は銅の代わりにアルミニウムを負極集電体として利用できるため、1kw/h当たりリチウムイオン電池の半額以下とコスト面で大きなメリットがあります。
しかしもちろん、そう都合よくメリットだけがあるわけではありません。
価格は魅力的ですが、エネルギー密度も半分程度しかないため、EVに使用された場合の航続距離は短くなります。
リチウムイオン電池が商業ベースに乗る前には、ナトリウムイオン電池も同様に研究されていました。しかし、いくつかの問題もあり実用には至りませんでした。
リチウムイオン電池材料の供給、コスト面の将来的な懸念から、現在、ナトリウムイオン電池への関心が再浮上しましたが、問題は変わらず存在します。
リチウムイオン電池が市場で成功したのは、リチウムが元素の中で3番目に軽く、小型軽量で強力な電池を作ることができたからです。
ナトリウムはリチウムより大きく重いため、リチウムイオン電池ほど軽量で強力なエネルギー貯蔵体には向いていません。大きく重いナトリウムイオンは活物質への挿入(インターカレーション)が困難であり、リチウムに置き換えるためには正負極構成要素を新たに開発する必要があります。
そうした開発の中で、ナトリウムベースの電池エネルギー密度は、かつての一部低級リチウムイオン電池とほぼ同じになってきています。
今後の研究により、リチウムイオン電池に置き換えられるナトリウムイオン電池が市場で優位性を持つ可能性が期待されます。
正極、負極材料
正極
高価な希少金属であるコバルトを避け、ニッケル、マンガン、鉄、オキソニアン、プルシアンブルーその他が試されている。
層状遷移金属酸化物の多くは還元時にナトリウムイオンを可逆的挿入(インターカレーション)できる。NaイオンはLiイオンよりサイズが大きいため、インターカレーション速度が遅く、電圧・速度が異なる複数のインターカレーション段階が存在する。
負極
ハードカーボン(難黒鉛化性、非結晶性、非晶質の炭素からなる不規則な炭素材料)が有力。
グラフェン、ヒ化炭素、その他金属合金や酸化物も試されている。
非常~~~にざっくりいうと、様々な可能性の中でナトリウムイオン電池商業化のため有力な材料と製造工程を模索している状態です。
そして、他のリチウムイオン電池代替品から一歩先んじて、商業化の可能性が高いとみなされています。
ナトリウムイオン電池のメリット、デメリット
ナトリウムイオン電池のメリット
・リチウムよりはるかに豊富に存在し、入手しやすく安価
・リチウムイオン電池と同様か近い性能に達する可能性がある
・加熱や発熱が起こりにくく安全性が高い
ナトリウムイオン電池のデメリット
・電圧が低い
・充放電速度が遅い
・サイクル寿命が短い
これらは現段階の問題ではありますが、大容量高出力には向いていない状態(EV等)といえます。
そのため、エネルギー貯蔵システムなど定置型の蓄電池に適しています。
いずれにしても、技術的な面とともに量産にむけて解決すべき問題があり、研究の余地があります。
二次電池の未来と各国経済のパワーバランス
数年前までは、全固体電池が次世代電池の有力候補といわれていました。
リチウムイオン電池の安全性への懸念が大きく、解決すべき課題だったからです。
しかし、性能は劣るが安全性とコスト面で優れたLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池が見直されたことで、やや全固体電池のトレンドが収まった感があります。
リチウムイオン電池市場全体の需要が予想以上であることから、今度は原材料面の懸念が大きくなり、価格競争の段階にも入り、ナトリウムイオン電池やマグネシウム電池など、新たな可能性の模索が始まっています。欧米のメーカー、特に炭酸ナトリウムの世界既知埋蔵量90%を有する米国にとっては、世界のリチウム鉱山生産量の72%を占め、主要金属材料とEVのサプライチェーンを支配する中国からバランスを取り戻すチャンスでもあります。
ナトリウムイオン電池への取り組みが成功すれば、リチウムイオン電池の有力な代替品として、様々な用途に使用できる可能性があります。
例えば、性能や軽さより価格・安全性を重視した定置用蓄電システムや一部のEVなどにナトリウムイオン電池を用い、軽さやエネルギー密度重視のリチウムイオン電池との差別化が進めば、競合は鉛電池やLFPということにもなるでしょう。
一年前に中国CATLなどで量産が始まり、BYD、伊仏のステランティス、インドのSodium Energyなどがナトリウイオン電池に参入しています。まだ決定的な優位性はないものの、Na電池を含め、リチウムイオン電池の代替品探求の開発は当分続きそうです。