リチウム(イオン)電池について話す時、いくつかの呼び方をする場合があります。
セル、モジュール、あるいは、パック(電池パック・バッテリーパック)などです。これらの違いは何でしょうか。
電池の呼び方:セル・モジュール・パック
リチウムイオン電池=バッテリーは一般的な総称です。
ただし、製造段階においては、アプリケーションによって電池がさまざまな形態をとります。セル、モジュール、パックはそれらの異なる段階における形態を指します。
結論からいうと、
単電池であるセルのグループがモジュールを形成し、モジュールのグループなど、アプリケーションに使用するために形成された最終形態がパックと呼ばれます。
この形成する作業を「アセンブリ」と呼びます。
セル(単電池)→
モジュール(複数セルの組電池)→
パック(最終形態:複数モジュールの組電池など)
※モジュールが単体で用いられる場合は、パックに相当します。
また1S1Pなど単セル+外部保護装置もパックです。
複数セルを用いる場合、パフォーマンス、安全性を管理・制御するため各セルの電圧を調整する=セルバランスが重要になります。
それぞれを見ていきましょう。
【セル】
リチウムイオン電池の最小単位はセルです。
セルとは、un3480・un3481、un3090・un3091の違い:リチウム電池の輸送規定 でも触れたとおり、「正極一つ、負極一つ、電解液で構成された単一の封入されたユニット」です。
ケースや機器接続端子、外部保護回路はついていません。
単電池とも呼ばれます。
【モジュール】
モジュールはセルのグループです。
パックを構成する、ひとまとまりの機能を持った構成部品として扱われます。複数のセルが同じフレームで囲まれ、直列または並列接続され、ケースなど均一な境界をもって外部と接続します。
モジュールは、構成部品ではなく単体として扱われる場合にはパックと同義です。
【パック】
パックは、アプリケーションに使用される最終形態です。モジュールのグループ、モジュール、1S1Pのバッテリーなどもパックに相当します。組電池とも呼ばれます。(輸入梱包規定でも触れているとおり、1S1Pの電池は単電池ではなく、組電池です)
セルがモジュール単位で接続される際、複数のモジュールが直列または並列接続され、BMS(バッテリマネジメントシステム)や熱管理、充放電管理などで制御されます。この管理された全体がバッテリーのパックです。
【セルバランスとは何か】
複数のセルを接続する場合、非常に重要なのが、セルバランスです。
例えば、28V16Ahのリチウムイオン電池パックの構成の1例をとると、
4つの14.8V7.8Ahのモジュールを、2S2P(2直列2並列)接続して組立て(アセンブリ)されています。
14.8V7.8Ahのモジュールは、3.7V2.6Ah(2600mAh)のセルを4S3P(4直列3並列)で接続して作られています。(LFPのセルは公称電圧が3.2Vなので12.8Vになります)。
4S3Pのモジュールには12のセルが使われています。
つまり、この28V16Ahのパックは、12のセルを用いたモジュール4つで構成されているので、総セル数は48セルになります。
このモジュール内の12のセルは、容量、電圧、自己放電、内部抵抗といった能力のばらつきがあります。
よって、4つのモジュールにも能力のばらつきが生じます。
ばらつきにより、容量差、サイクル劣化率が少しずつ異なっています。
少しずつではありますが、充放電を繰り返すと、その差はだんだん大きくなっていきます。セルごとの満充電に要する時間にずれが出てくると、最も性能の低いセルの過放電・過充電を防ぐため、そのセルに合わせて全体の充放電を行います。具体的には、充電中、または何もしていない時に、パック内の高電圧セルを放電させて低電圧セルに合わせます。
性能の低いセルに合わせるので、能力値の高いセルは本来より浅いところで充放電が行われることになり、全体の容量は低く、充放電サイクルが早くなります。そうなると、モジュール・パック全体でセル能力を十全に使いきれず、サイクル寿命が減り、大きなロスが生じてしまいます。
万一、セルバランスを崩したまま=電圧不均衡のまま使用を続けてしまうと、劣化した箇所に負荷がかかり、不具合が生じ、膨れ、破裂、発火その他の重大事故が発生する可能性があります。
セルバランスをとる=各セルの電圧を調整することで、パック・モジュールを管理するのは、安全性の担保であり、万一の際の事故を防ぐ、といった目的が含まれています。
セルバランスとは
・バッテリーパックの安全性を担保するための制御 → 劣化事故危険の高い、性能の低いセルを基準に全体のバランスを取る → 各セルの電圧を調整する → 高電圧のセルを強制放電させる → サイクル含め全体性能が落ちる
高容量高電圧の優秀なセルと性能の劣るセルが組み合わせられたパックより、中~高程度の、能力が揃った、一致性の高いセルが稼働したパックの方がパフォーマンスがよく、安全性が高くなります。
安全性が第一ですが、セルバランスを取るため不必要に性能を犠牲にしたくはないものです。
そのため、セル選定の際、できるだけ容量や電圧、自己放電、内部抵抗のばらつきが少ないセル同士を組み合わせることが大事になります。つまり、セルメーカーで製造される際の品質の高さ(一致性)が重要になってきます。
【EVのパック・モジュール・セル】
BMW、ボルボ、ポルシェ、フォルクスワーゲンに使用されるリチウムイオン電池のパック、モジュールの構成と、セルの内訳を見てみましょう。
メーカー 車種 | BMW iX3 2021 | Vorvo Polestar2 2021 | Porsche Taycan 2019 | VW ID.3 2020 | Tesla Model S 2014 |
パック内総セル数 | 188 | 324 | 396 | 216 | 7104 |
モジュール構成・数 | 2P11S×2MD 2P9S×8MD | 3P4S×27MD | 2S6P×33MD | 2P12S×9MD | 6S74P×16MD |
セル容量 | 117Ah | 67.4Ah | 65Ah | 79.3Ah | 3.4Ah |
セルメーカー | CATL | LG ES | LG ES | LG ES | Panasonic |
セル形態 | ラミネート | ラミネート | ラミネート | ラミネート | 円筒形18650 |
EVのセルバランス
EVに用いられるセルは円筒形セルの場合は数百、数千におよび(上記テスラmodel Sでは7104本)、ラミネートセルの場合は現在は200~400程度の数になります。
それらのセルにはわずかずつばらつきがあり、それをベストパフォーマンスで用いるためのバッテリーマネジメント、セルバランス制御には、非常に高度な技術が必要であることがわかります。
特にラミネートセルの場合、バランスを崩し劣化したセルは膨れることがあります。(缶タイプも膨れますが、缶圧により抑えられ、万一の場合は安全弁が作動するため、膨れ速度がラミネートより遥かに遅くなります)
これは熱衝撃試験により膨れたモジュールですが、劣化して膨れた状態としては同じです。
ラミネートセルの膨れを防ぐためには、強いケーシングで抑えるなどの方法がありますが、その前に、膨れないためのセルバランス制御、セルの一致性が大事です。
EVなど大きなバッテリーパックを要する場合、缶タイプだと膨れには強くなりますが、容量が小さいため、大型ラミネートセルよりも多くのセルを用いねばならず、セルバランス制御もその分難しくなります。
多くのEVメーカーはラミネートセルを用いていますが、テスラは缶タイプのセルを使っており、4680など大型缶タイプのセル開発が急がれているのは、高容量セルの方が制御数が少なくて済むのも一つの理由です。