リチウムイオン電池の正負極活物質に加えられる材料のひとつ、バインダーについて簡単に解説します。
バインダーとは
バインダーとは、英語のBinder(s)です。
縛るもの、接合材、料理のつなぎ(小麦粉・卵など)の意味があり、言葉としては文房具のバインダーと同じです。
電池に使われる場合は、接合材・結合剤の意味となります。
バインダーは、電極活物質と導電助剤を凝集させ、コーティングして集電箔へ安定に保持する接着剤の役目をはたします。
電池に使用されるバインダーの量は、電池総重量の中のわずかな割合にすぎません。
ですが、安全性、エネルギー密度、容量などに対してさまざまなメリットをもたらす重要な素材です。
バインダーの役割
リチウムイオン電池の電極には正極と負極があります。
電極は通常、正負極活物質、導電助剤、バインダーなどを溶媒と混合したペースト(スラリー)を集電箔に塗布して結着させます。
バインダーはこのスラリーを集電箔に結着させるために使用されます。
正極活物質には主にニッケル、コバルト、マンガンなどが用いられ、集電箔にアルミを用います。負極活物質には主にカーボンが用いられ、集電箔に銅を用います。正極、負極ともにバインダーが添加され、溶剤ベースまたは水ベースの二種類があります。
電池材料としての特性
スラリーを集電箔に結着させるバインダーには、電池材料としてさまざまな特性が求められます。
・電解液に溶解しない
・電解液で膨潤しない
・電極内の酸化還元環境に耐える
・密着性
・分子の分散、付着、結合
・容量保持
・必要量(バインダーが多いと内部抵抗が上がるので設計上極力増やしたくない。バインダーの使用量が少ないほど、セル全体の容量が向上)
・製造コストへの影響
などです。
電極上の活物質の結着が弱いと、集電箔から活物質が剥がれ落ちます。
電池が新しく、円筒などの缶の中で圧迫されている時は押さえつけられているので、活物質が剥離しても問題が見えにくいものの、特にラミネートセルなど圧力の弱い外層の場合、充放電を繰り返すうちに膨張により剥離した電極の機能が損なわれ、最悪の場合発煙発火などの事故に至る場合もあります。
溶剤系バインダー、水系バインダー
正極に主に使われる溶媒ベースのバインダー(PVDF)
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)
耐薬品性、耐熱性、高強度を求める用途に使われるフッ素ポリマーのひとつ。強誘電性や機械的強度をもち電解液に対しても電気化学的に安定しています。溶剤としてNMPを必要とします。
負極に主に使われる水ベースのバインダー(SBR)
SBR(スチレンブタジエンゴム)
正極および負極のスラリーにはPVDFが用いられてきましたが、コストや環境問題から、次第にPVDFの使用をやめSBRなどの水性ベースバインダーを使うようになってきました。
水を微量に含むなどマイナス点もありますが、製造コストの削減、必要バインダー量の削減、製造工程の簡易化、無公害など利点があります。
水系バインダーは、酸化反応条件で解離するため正極には適さず、負極に主に利用されています。また、引張強度が強くさらに高性能が期待されるPAA(ポリアクリル酸)系バインダーが負極に用いられることもあります。
シリコン系負極におけるバインダー
リチウムイオン電池の負極活物質には、これまでカーボン(天然黒鉛、人造黒鉛)が主に用いられてきました。
高容量、高速充電、長寿命といった電池への要求を背景に、シリコン系の負極材料に関心が向けられたものの、シリコン系(Si)活物質は、充電時に膨張する性質があり、品質問題や危険性が伴う材料でした。
充放電を繰り返して活物質が膨張すれば集電箔に決着したスラリーが壊れ、電池性能に重大な影響を与えます。
そこで注目されるのが、バインダーです。
シリコンの膨張収縮を抑制、吸収可能なバインダーを用いることで、Si系負極活物質のデメリットを抑え、電池性能を維持することができます。
ただし、注意しなければならないのは、シリコン系(Si)活物質の表面/含有量/物性が各社各様であるため、一般的なシリコン負極用バインダーとの相性見極めが重要になります。
電池開発の今後
リチウムイオン電池は、まだ様々な開発の余地があります。
EVをはじめとする需要増加とともに開発競争も激しくなっています。
2023年のG7首脳会議、財務相・中央銀行総裁会議では、リチウムやレアアースなど脱炭素化に欠かせない重要な鉱物の安定調達など、脱炭素のサプライチェーンへの取り組みが焦点のひとつとしてあげられました。
圧倒的シェアを有する中国への依存を抑える目論見もあります。
高性能か、コスト削減か、あるいは両方か、いずれも左右するバイプレーヤーとして目立たないながら大きな影響力を持つバインダー。後発企業が参入し大きなシェアを得る可能性がある材料として要注目です。