不具合を起こした中国製ワイヤレスイヤホンを、解体して電池の中身を見てみました(ネットで購入した不具合品です)
中のLib電池はどうなっているのでしょうか。
充電器の電池を解体してみる
解体前の本体底面。
不具合電池の発熱、発火により筐体が溶け焦げています。樹脂の材質にもよりますが、400℃以上になったと考えます。
左右のイヤホンに一つずつ、本体に一つ、計3セルが使用されているタイプのワイヤレスイヤホンです。
注!!!
電池の知識と経験がない人は絶対に電池解体を行わないでください。
専門家が安全を確認し、適した環境下で実行しても危険な行為です。
リチウムイオン電池の動作範囲電圧はおよそ2.7V~4.2V(設計によっては~4.4V)です。
充電切れで作動しない電池も十分に高い電圧を保持していることもあります。
死んでいる(電圧がほぼ0Vに近い)電池でも、空気中の水分と反応するとリチウムが熱を持ち、危ない状態になります。
当然、電圧がある状態の電池の解体は厳禁です。ケガ、発火、爆発など予測不可能な危険があります。
自己責任でも周囲を巻き込む恐れがあります。
不具合が起きたのは充電用の電池。イヤホン部分と回路を取り外して中の電池を見てみます。
ラミネートセルでした。電池上部は完全に焼けてしまっています。
ワイヤレスイヤホンには、小型円筒形タイプのリチウムイオン電池もよく使われています。
ちなみに取り外した上部(イヤホン)の裏と、電池接触部はこんな感じでした。
USB充電のUSB端子部は、電池の発熱によりケース側面で変形しています。
ケースと電池が熱で溶着していたため、本体の電池を外すと筐体に穴が。
これが取り外した充電用のリチウムイオン電池です。
セパレーターとアルミ箔(正極箔)は高温で燃え尽きてしまって
外装(ラミネート)の一部と銅箔、活物質のみ。
巻回された箔をほどいていきます。
セパレーターと正極が燃え尽き、
熱で炭化した活物質が剥がれ落ち、不具合原因の可能性があるリチウム析出や内部短絡の確認はできない状態になっていました。
ここまで熱のダメージを受けているということは、おそらく充電中の事故であり、外部からエネルギーが注入され続け、電池容量以上の発火が起こったと思われます。
今回の解体だけでは不具合原因は不明であり、
この不具合解析のためには、もっとサンプル数が必要でしょう。
身近なリチウムイオン電池からも、日常の使用範囲と思っているシーンで思いがけない危険な事故が発生する場合があります。
原因や気をつけるポイントを知り、安全に使用しましょう。
また、リチウムイオン電池製造側の不具合や劣化の要因、診断についてはこちらで解説しています。
イヤホンの電池も解体してみる
耳側の電池です。
イヤホンにはラミネートコインセルもよく使われますが、これは極小型のラミネートセルです。
みたところ熱による影響はなさそうです。
ちなみに電圧を測ったところ、116mVでした。既に過放電が進行しきった状態です。
サイズ、容量、安全性を確認し、慎重に解体します。
※繰り返しになりますが、経験と知見がない場合、電池解体は絶対に自己判断で行わないでください。リチウムイオン電池の解体はドライ環境でなければ大きな事故を引き起こす可能性があります。
外装をひらくと巻回した電池が出てきます。電解液の独特な匂い(メロンのような、きゅうりのような匂い)がします。
最外層は負極のようです。
巻回電極をほどいていきます。この電池は、一般的なリチウムポリマー電池(厳密にはポリマーではなく電解液)と呼ばれるラミネートタイプで/セパレータ/負極/セパレータ/正極の順番に巻回機で巻かれた構造となっています。自動機(量産機で巻回されるタイプ)と半自動機(職人工のような女性たちが巻くタイプ/人海戦術)のいずれかで製造されています。
少ロット品だと後者が多いですね。
セパレーターを外し負極を広げると、リチウム析出がありました。劣化によって負極に入りきらなかったリチウムが偏在化し、表面に苔上に残ったと考えます。
逆側にもありました。裏側は紫がかった模様が出ており、負極表面では不均一な拡散状態であったようです。
リチウム析出は、リチウムイオン電池の劣化要因の一つです。
通常の使用範囲内で発生する現象ですが、場合によってはデンドライトとなって内部短絡を起こす可能性があります。
ひらいたセパレーターには負極活物質が付着しています。
正極と負極です。リチウム析出はみられますが、比較的きれいな状態です。
このワイヤレスイヤホンには3つの電池が用いられていました。
充電器の電池とイヤホンの電池が同じメーカーの場合もありますし、違う場合もあります。
電池不具合を解析する場合には、各電池のSPECデータ、保護回路設計、筐体設計、使用状況、使用温度、放置温度など、様々な情報から推測し切り分けていくことになります。
電池解体はその手段の一つであり、解体した電池から原因が判明する、あるいは「電池自体には問題がない」ことも有益な情報となります。